戦争をどう乗り越えるか~歴史研究の現場からのメッセージ~

2017年7月1日、日本華人教授会議と中国抗日戦争史学会は、公益財団法人東華教育文化交流財団、中国社会科学院近代史研究所『抗日戦争研究』編集部の協賛と明治学院大学平和研究所の後援のもとに、東京市内にある明治学院大学において、「盧溝橋事件80周年国際シンポジウム 戦争をどう乗り越えるか~歴史研究の現場からのメッセージ~」をテーマとした学術シンポジウムを開催した。これは、日本華人教授会議が歴史とりわけ東アジア近現代史研究の重要性に鑑み、日本・中国および世界各地の近現代史研究者に呼びかけて、戦争史関連の最新研究成果を一般市民や社会各界に直接公表し、情報発信することを目的としたシリーズ・シンポジウム「歴史研究の現場からのメッセージ」の第三弾である。

今回のシンポジウムの開催はちょうど「盧溝橋事件80周年」という節目の時期に重ねていて、盧溝橋事件の勃発で日中両国、両民族の直接対立・対決となった「日中戦争(これは日本流の中性的な表現であるが、中国ではこの戦争を「抗日戦争」、つまり日本の中国侵略に抵抗する戦争と呼ばれている)」の歴史に対する検証と、人類は戦争の歴史から何を汲み取るべきか、戦争をどう乗り越えるべきかなどが、今回のシンポジウムの最も重要な趣旨であり、使命でもあった。

シンポジウムでは、日中両国の歴史研究者、大学院生らが、「史実が語る戦争と拡大への道」、「“抗戦”の中国と日本」、「“歴史認識問題”と日中関係への提言」という三つのセッションに分かれて、二十本の研究報告と意見発表が行われた。各報告者は、限られた時間を利用し、日頃の研究の一端や、新しい資料、新手法による最新の研究成果と心得などを発表した。日中両国の研究者、歴史愛好者、新老華僑団体や日中友好諸団体の責任者・関係者、マスコミ関係者および大学院生・学部生など約90名がシンポジウムに参加し、日中戦争史関連の諸問題に対する関心の高さを示した。

今回のシンポジウムは、日本華人教授会議と中国社会科学院近代史研究所との長年にわたる協力関係の結晶の一つであり、また、近年来日中両国に見られる若者の歴史離れ、通俗化・市場化・政治化による「歴史不信」の社会的動きに対する「歴史研究の現場から」の真正面な回答でもあった。これまで戦争史研究の分野で最も重要な「政治史」「軍事史」「外交史」などのテーマに関する最新の到達点を示す成果もあれば、「文学史」「民族史」「経済・財政史」「マスコミ社会史」などこれまでの「戦争史」研究にあまり取り上げていなかった分野における斬新な発想、新しい挑戦、意欲的な試みも多数披露された。

中国側の参加者の多くは、若手研究者が中心で、しかも論文の「審査」と「選抜」の段階を経て初めて今回のシンポジウムに参加できた者が多かった。日本における日本人研究者と在日中国人研究者による「中国研究」と「近現代史研究」は、「栄光」が色あせ続けている。研究環境が悪化しつつあり(小環境)、他方、ネオ・ナショナリズム(「ハイパー・ナショナリズム」とも言われる)が各国で勃興している(大環境)中で、如何にして「本物」の学術研究を続けていくか、また「良識」ある優秀な日本人研究者と協力して、新しい「戦力」(若手研究者)を如何に育成していくかは、「50後」「60後」という私たち世代の「在日中国人研究者」に課せられた最も重要な課題の一つではないだろうか。
今回のシンポジウムのプログラムは以下の通りである。

プログラム

開会式
司会:趙軍(千葉商科大学教授)
開会の辞:廖赤陽(武蔵美術大学教授、日本華人教授会議代表)
基調報告
・村田忠禧(横浜国立大学名誉教授)「認識の共有化の前提としての歴史事実の共有化の重要性」
・王建朗(中国社会科学院近代史研究所研究員・所長)「戦後対日処置構想與実践的変化(戦後の対日処理構想と実践における変化)」

第一部 「史実が語る戦争と拡大への道」
司会:陳肇斌(首都大学東京教授)
報告者:
・井上久士(駿河台大学教授)「抗日民族統一戦線と日本」
・賀江楓(南開大学副教授)「1940-1942年閻錫山與対伯工作的歴史考察(1940-1942年の閻錫山と日本『対伯工作』についての歴史的考察)」
・趙軍「『英雄』未満、『凡人』以上~『訊問調書』から見る日中戦争中の中西功」
・周東華(杭州師範大学教授)「仏已成魔:淪陥初期的杭州日華仏教会(悪魔になった仏:陥落初期の杭州日華仏教会)」
・田中寛(大東文化大学教授)「文学で刻む日中戦争の記憶―戦時下に作家は何を見、何を感じたのかー」
・劉本森(山東師範大学講師)「英美学界的盧溝橋事変研究(英・米学界における盧溝橋事変の研究)」

第二部 「“抗戦”の中国と日本」
司会:廖赤陽
報告者:
・桜井良樹(麗澤大学教授)「国際関係の中の華北駐屯日本軍」
・趙秀寧(北京大学大学院博士課程)「抗戦時期日本対華資源的另類略奪―青島特別市“献銅運動”的研究(抗戦時期日本の中国資源に対するもう一つの略奪―青島特別市の『献銅運動』についての研究)」
・戸部健:(静岡大学准教授)「南開学校とYMCA―日本軍による南大攻撃(1937年7月)の遠因―」
・李玉蓉(北京大学大学院博士課程)「従進入山西到立足太行―試論八路軍後勤供給與軍事財政的創建(八路軍の補給と軍事財政の樹立―山西省の場合)」
・程斯宇(南開大学大学院博士課程)「中共華北抗日根拠地的整風審幹運動(中共の華北抗日根拠地における整風・幹部審査運動)」
・高瑩瑩(中国社会科学院近代史研究所編輯)「霧社起義與日本的理蕃政策―(霧社蜂起と日本の原住民対策について)」
・関智英(日本学術振興会特別研究員)「呉佩孚擁立工作と日支民族会議」

第三部 「“歴史認識問題”と日中関係への提言」
司会:李恩民(桜美林大学教授)
・鹿錫俊(大東文化大学教授)「戦争はなぜ勃発したのか:当局者の認識から見る『コミンテルン陰謀論』の虚構」
・高士華(中国社会科学院近代史研究所研究員)「論中日両国的戦時・戦後歴史連続性(中日両国における戦時・戦後の歴史的連続性について)」
・楊東(天津商業大学副教授)「循名責実――中共関於“抗日戦争”的概念表述與話語行動(名実相伴う:『抗日戦争』に関する中共の概念表現と行動)」
・天児慧(早稲田大学現代中国研究所所長、教授)「日中関係の直面する課題と今後の展望」
・姫田光義(中央大学名誉教授)「『撫順の奇蹟』を世界歴史記憶遺産に!!」

閉会式
司会:高士華
総括と閉会の辞:殷燕軍(関東学院大学教授)      (文責:趙軍 千葉商科大学教授)


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