『一帯一路』構想:国際経済法秩序のルネッサン−—21世紀グローバル・ガバナンスのチャイナドリーム

 

日本長江デルタ地域経済統合促進協会・一帯一路研究院学術委員

亜細亜大学教授  弁護士  范 云涛

 

 

(Ⅰ)一帯一路構想の国際法プロローグ

「一帯一路」構想のインフラ建設にあたり、リーガリズムは基本的な安全弁であり、国内法と国際法の方法をいかに巧みに活用し、司法と法執行面の手段と国際商事仲裁制度および国際経済条約の合理的な適用をもって、“一帯一路”建設にかかわる法治レベルを高め、“一帯一路”構想の規範化、公正、透明性ある適法な実施メカニズムを確保できるかどうかは、“人類運命共同体”たる究極目標の実現如何にかかっていると言えよう。この点は、重要な理論的な意義を有するのみならず、重要な実践的な価値も十分備わっているものと考えよう。“一帯一路”構想が関わっている国際経済貿易投資およびファイナンス等国際法律問題に関する読み込みとシミュレーションリサーチを行うことは、関連諸政策の適法性、実施可能性、オペレーティング可能性を高め、国際事業リスクヘッジ、一帯一路関連事業プロジェクトの有効実施を確保ならしめることは、まさしく“一帯一路”構想の成否を占う重要なキーポイントになるに違いないだろう。

 

A[一帯一路]構想の段階的な成果を振りかえよう

20139月を皮切りに、習近平主席による「一帯一路」広域経済圏構想が打ちされてから、一帯一路はその全体方針と理念の提唱、グランドデザイン青写真の公表を経て、中長期戦略ロードマップの地ならしからより具体的な実施行程表プログラムの実施段階に突き進んできている。ついに「六廊六路多国多港」全方位にわたるフル展開となる国際協力レジームが出来上がっているのが現状である。地理的な面積カバーは、すでにユーラシア大陸を経由しアフリカ大国まで広がり、東南アジア、大洋州、北極圏、ラテンアメリカ等世界主要五大陸まで及んでいる。沿線諸国地域にまたがるインフラ施設連携のコネクテビテイレジームが基本的に完成を見ており、基礎インフラ“ハードウェアの連携”および政策規則の“ソフトウェアの融合”が相互に促進し合い、数多くの互恵ウインウィンプロジェクト事業は成功裡に着々と推進されているのである。“六廊”とは、六つの陸上の国際経済協力ロビイングゴールデンルート(経済回廊)のことを指す。137ヶ国と30カ所の国際組織と中国との間に締結されたバイラテラル協力覚書または議定書が締結済みである。

 

 

B)“一帯一路”構想は、世紀を跨がる巨大プロジェクトのため:チャンスと事業リスクは表裏一体

一帯一路構想はユーラシア大陸ないしアフリカ、大洋州、ラテンアメリカ州など世界五大洋各国との間の経済共同体協力プラットフォームを目指している。仮にリーガルリスクの危機管理と排除のメカニズムを持ち合わせなければ、国際法による保障システムが欠如したままであれば、その行政実施過程における予測不能な潜在リスクにつき、成功裡に対処できるかどうかは想像にかたくないだろう。即ち、一帯一路構想は、台頭しつつある大国の強い外交力をもって国際法のルールと複雑怪奇を極める国際法上のリスクと危険な落とし穴への対応に代わることはできない。

なぜなら、沿線国家では大陸法系もあれば、イスラム法系、英米法コモンロー法系といった多文化アイデンティティーを背景としたリーガルエリアと複雑な法的関係を孕んでいるため、一筋縄にはいかない問題が横たわっている。従って、法治主義(Rule of Law)を基盤とする公正で透明性ある予測可能で公正かつ開かれた国際法コンプライアンス(Global Compliance)投資ビジネス環境を立ち上げる必要がある。

既存のグローバル・ガバナンスおよび国際法の既存体系に対する挑戦またはそれに取って変える変革ではなく、それに対して中国アイデアを提供したり、智慧を組み入れたりして既存のグローバル・ガバナンスの改善に寄与するものである。中国は、WTO加盟後に甘受していた国際経済貿易ルールの受け身的な「一般加盟国」地位から脱去して、既存国際経済貿易規則ルールの修正ないしは既存国際法スタンダードの“意思決定者”および“オペレーター”たる地位への転換をもって、更に大きい国際法へのインパクトを与えることになる。そうして多元的な双方向でのリーガル分野の異文化間交流を図り、多くのプレイヤーが法のルールを運用し、共にリーガルな共通言語を駆使しながら、“一帯一路”構想の合法性、政策安定性と国際社会での信頼性をはじめて確保せしめることが可能であろう。

 

Ⅱ)一帯一路:国連のSDGsを核心理念とすべきだ

国際法上の“持続可能な発展”と20159月国連発展途上国サミットで採択された2030SDGsアジェンダーと“一帯一路”構想との間には緊密な相関関係があると言えよう。なぜなら世界でも普遍的な価値を持つ17の具体的な指標は、世界経済と社会、環境という三大領域に跨がるものであり、193の加盟国にとっては未来向こう15年(2016年から2030年まで)の発展目標と成長モデルにつき、青写真が描かれている。

一帯一路沿線国向けに中国製品を輸出し、さまざまな種類の産業連携プロジェクトを推進するほか、持続可能な成長モデルの輸出も行わなければいけない。従って、“投資の自由化”“利便化”“グリーンエコノミー”“法制化された経済”をモットーとする一帯一路建設は、中国のグローバル・ガバナンスの試金石であろう。

“一帯一路”沿線諸国は、絶対的多数の国家と地域は新興国または発展途上国になるわけで、ほとんどの国は政局不安定、内戦頻発、宗教間の衝突やテロリズムと暴力事件が多発したり、官僚腐敗と汚職政治が続出したりするカントリーリスクが高い地域である。海外投資家からの視点では、オフショア会社設立や、事業許認可、銀行与信、企業所得税、関税や国際二重課税および会社法、破産法、契約法、金融関連法、外為法等さまざまな現地法制の壁を乗り越えなければならず、沿線諸国での経営リスクはその予測不能性に加えて、軒並み高いものがある。加えて、平均GDP水準が2,068万米ドルに過ぎず、これが同時期の世界全体の平均値3,900万米ドルよりも遠く及ばず、仮に一人当たりGDP数値(5,050米ドル)から図っても世界の平均値(10,500米ドル)よりも半分しかない。詳しくは、下表を参照されたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表:一帯一路沿線国カントリーリスク(投資環境編)

出所:(世界銀行WGIデータバンク,数字は世界全体の国家数のうちの順位を表す)

 

Ⅲ)“一帯一路”構想は新たなアジア法のルネッサンス

 

中国は、従来のように強い外交パワーをもって“一帯一路”インフラ事業またはその他ユニラテラル型国際協力プロジェクトにおける紛争トラブルの解決に個別ショック療法で対処する段階に止まることなく、いち早く国際経済法務のルール再編成のもとで、次第に「主権外交による経済紛争介入」から脱却し、代わって「国際法の規則ルール」という法の支配原則を梃として、客観的かつ、理性的的な対応をもって“投資の利便性アップ”というグローバリゼーションを迎えるべきであろう。最終的には、21世紀の国際経済法律秩序の再構築実践に挑み、グローバル・ガバナンスの大国間パワーゲームに勝ち抜き、2049年を終着点とする第二のチャイナドリームを実現するのである。

その意味では、強い法治主義を堅実な保障ならしめた“一帯一路”は、いずれ順調にその沿線諸国との5つのコネクテビテイ目標を実現させ、国際社会に共に繁栄する経済貿易投資のプラットフォームを提供し、人類のために異なる法体系や異なる法エリアに跨がる新たなアジア法のルネッサンスが訪れよう。

①中国がグローバルスタンダードや既存国際法の受け身的な遵法者から規則やルール体系の意思決定者、グローバル・ガバナンスのメインプレイヤーへの転身を果たせる意思がある。

②地球温暖化、気候変動対応、人類の生態系環境保護、生物多様化

海洋資源等といった世界共通のアジェンダーにおいては、中国独特の智慧アイデアとチャイナブランド効果を広めることは、人類運命共同体、責任と利益共同体の創出と重なる。

悠久なシルクロード歴史の流れのうち、大陸法系の文化がもつ優位性は、かならずや“一帯一路”建設プロセスを貫き、最終的には、“一帯一路”の総仕上げ成功した暁には、その巨大な成功事実が、公正公平で合理的で開かれた法治大国として中国は、自らの法の支配に基づくチャイナドリームを実現させ、全人類の人々に幸せをもたらせるにちがいない。

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 


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