コロナ後の国際秩序と日中関係

全日本华侨华人中国和平统一促进会会长 凌星光

新型コロナウイルスへの対応、経済の立て直し、コロナ後の世界(国際秩序)が論じられている。中国、日本、韓国をはじめとするアジア及び欧米では、コロナ感染は峠を越し、重点は経済立て直しに移りつつある。こうした中、コロナ後の国際秩序の行方が議論の的となりつつある。本稿はこの問題を取り上げつつ、中長期な日中関係の行方を展望してみたい。

 

先ず、感染症と人類とは長い闘いの歴史があり、そのパンデミック(世界的な大流行)が社会の発展を促したという事実がある。58世紀に起きた天然痘が日本での仏教を普及させた、14世紀のペストがヨーロッパの封建制を崩壊させ近代主権国家を誕生させた、16世紀の天然痘がスペインの新アメリカ大陸征服を助けた、1920世紀のコレラが公衆衛生の確立を促した、20世紀初頭のスペイン風邪は第一次世界大戦の終結に影響を与えたなどなどである。今回の新型コロナウイルスは、現代社会の仕組みを大きく変えることは間違いない。それが国際秩序の変革をもたらすかどうかは意見が分かれる。

 

次に、新型ウイルスを巡る米中間抗争を考えてみる。激しい対立は次の三方面で繰り広げられた。

  • 発生源を巡る論争。米国は武漢の研究所が発生源と決めつけるが証拠はない。中国

は専門家に任せるべきで、新型ウイルス問題を政治化すべきでないと主張する。非公式のSNSでは発生源はアメリカである可能性もあると言う。事実、米国専門家が、昨年夏からのインフルエンザで多くの死亡者を出したが、その中に新型ウイルス感染者がいた可能性が高いと言明している。また、昨年11月以前に米欧で感染者がいたという報告も相次いでいる。最近、ポンペオ国務長官は「武漢が発生源」とする自己発言を是正する方向に動いている。但し、トランプ氏と共和党は、秋の大統領選を前にして、アメリカでの感染者急増の責任を中国に転嫁させようとしている。57ページにわたる共和党選挙対策内部指針には、1)中国は「真相を隠ぺいしてウイルスの蔓延をもたらした」と責任を擦りつける、2)民主党の「中国に対する態度は弱腰」と宣伝する、3)中国の責任を追及し、「対中国制裁」キャンペーンを推進する、の三点が示されている。これが現在のアメリカだ、あきれてものが言えない。

  • 世界保健機構(WHO)の公正性を巡る論争。トランプ氏はWHO、とりわけテド

ロス事務局長は中国寄りで、中国の初期対応の後れや「隠蔽」を弁護していると責め、拠出金の停止、引いては脱退をも口にしている。が、世界の多くの専門家たちは、強い感染力を持つ新型ウイルスの急襲を前にして、初期対応においてミスを犯すことは避けられないし、中国はよく対応し、武漢市、湖北省封鎖も含めて、一連の対応策は効果的であったと評価している。それは、テドロス事務局長ばかりでなく、WHOの専門家たちの一致した見方である。518日に開かれた年次総会で、米国はWHO非難の一大キャンペーンを繰り広げようとしたが、結局、米国を支持する国はほとんどなく、アメリカは完全に孤立した。最後に採択された決議は、新型コロナウイルスへのWHOの対応について公平で独立した検証を求めるとなっているが、それは中国やWHOの責任を追及するものではなく、感染終息後に将来のために学問的検証を行うというもので中国も賛成した。アメリカのウイルス感染を政治問題化しようとする意図は完全に失敗した。

  • 台湾のWHO総会参加を巡る論争。アメリカと日本がイニシアティブをとり、台

湾のWHO総会へのオブザーバー参加を実現させようとした。中国は当然断固反対したが、若干受け身に立たされた。と言うのは、馬英九時代にオブザーバー参加を認めたことがあり、蔡英文政権になってから「92共通認識」を受け入れないため追い出したという経緯があったからだ。1月総統選挙で蔡英文が大勝したこと、新コロナ対策で成功したことなどにより、国際世論は台湾参加に同情的である。中国政府の政治判断で参加できなくなったので、新型コロナ対策での国際協調が問われているときに台湾の参加要求を持ち出すのは感染症問題の「政治化」だという中国側の主張は、説得力に欠ける面があった。しかし、結局、WTO加盟国の大多数は台湾の出席を拒んだ。と言うのは、馬英九時代のオブザーバー参加は、中国政府の同意が条件となっており、中国政府の了解なしでの「台湾復帰」はあり得ないからである。

トランプ政権による、狂気じみた米中抗争は11月の大統領選挙まで続くが、トランプ陣営にとってプラスとなるかどうかは甚だ疑問だ。

 

第三にポストコロナの国際秩序について考えてみたい。コロナ後の国際情勢については、アメリカの覇権的地位が一層弱まり、中国の存在感が更に強まるというのが一般的な見方だ。但し、国際秩序に大きな変化が起こるかどうかとなると意見が分かれる。次の三つのシナリオが論じられている。

  • 米国覇権体制下での中国の孤立化。アメリカは相対的に衰退し、「世界の警察官に

はならない」と宣言して久しい。世界のリーダーとしての責任回避で、今回の新型コロナ対策でそれが顕著に現れた。しかし、米国はリーダーとしての地位、覇権的地位は維持したい。そこで始まったのが中国たたきであり、今回のコロナ感染問題で全く理不尽な手法を使って中国の孤立化を図ることだ。その目的は習近平政権の改変であるが、それは必ず失敗する。理由として以下の三つを挙げる。1)米中の力関係において、中国は旧ソ連、日本(1980年代)の比ではない。経済制裁を口にするけれども、中国経済は余りにも強大だ。中国に軍事的圧力を加えるが、西太平洋において米国はすでに劣勢にある。2)中国は米国の挑発には乗らず、冷静かつ理性的に対応する。米国の覇権維持戦略は中国の平和外交戦略には勝てない。3)国際社会が中国に味方する。現在、発展途上国は総じて中国を評価している。欧米日先進国では、中国は独裁国家として排斥されているが、中国社会の成熟化と共に、有識者の前向き評価は間違いなく高まっていく。

  • 中国主導の国際秩序が出現。拓殖大学教授川上高司氏は5月のテレビ出演で、「ポ

ストコロナにおいて、気が付いてみたら世界は中国主導の秩序になっていた」という懸念を語った。中国がコロナ対策で大きな成果を上げ、世界各国に医療支援物資を提供し影響力を拡大していることに注意を喚起したのである。中国のナショナリズムが強まる中、このシナリオに対する中国での共鳴者は少なくない。しかし、そうとはならない。これも三つの理由を挙げられる。1)世界経済(とりわけ国際金融)のルール作り、科学技術、総合軍事力の面で、米国の優位性は今後30年変わらないであろう。2)中国のソフトパワー強化にはあと30年を必要とする。昨年10月、第19期四中全会で初めて上部構造の「国家ガバナンスシステムの現代化」を提起し、2035年に基本的に、2049年には全面的に実現するとした。「国家ガバナンスシステムの現代化」とは米欧日先進国の有識者からも評価されることを意味し、ソフトパワーの強化につながる。3)外交面での国際的ひのき舞台での活躍はまだ日が浅く、人材も経験も不十分である。中国国民の素養も向上させていく必要がある。

  • リーダーなき無秩序世界。米中対立が続く中、イアン・ブレマー氏の「リーダーな

Gゼロ世界」が世の注目を浴びている。しかし、それは一時期続くことがあっても、20年、30年、50年と続くことはないであろう。せいぜい10年くらいの摩擦・対立(引いては局部的衝突)を経て、米中の協調体制が形成されていくであろう。理由としてはやはり三つ挙げることができる。1)アメリカの国民は米中対立で得るものはなく、米国エスタブリッシュメントの対中強硬策は是正されざるを得ない。トランプ氏の挑発的虚偽トークは長続きしない。2)あと10年もすれば、経済力、国際金融、軍事力、科学技術などすべての分野で、中国はアメリカに肉迫していく。現在、アメリカが試みている対中封じ込め政策は水泡に帰するであろう。米国は戦略的思考力に長けており、総合的国力において中国に追い抜かれる前に、交渉の座につく可能性が高い。3)米中対立は世界にとって好ましくないことは歴然としている。米国の覇権主義には発展途上国ばかりでなく、欧日先進国も反感を抱いている。中国式社会主義への理解が今一つということで、欧日の米国を諫める力はまだ弱いが、中国の説得力レベル向上によって改善され、米国の覇権主義放棄への一大圧力になることが期待される。

今後の中長期的趨勢は、約10年の米中摩擦・対立を経て、覇権なき世界の形成に向けて国際協調体制が構築されていこう。

 

第四に、日本の外交政策の近況を論じてみたい。日本の外交は基本的に三つの流れがあるが、それに即して最近の状況を分析する。

1、対米一辺倒の流れ。60年前、冷戦構造の中で日米安保条約が締結され、日本の対米一辺倒外交が始まった。1970代初め、米中関係が改善したため、また1990年代初めにソ連が崩壊したため、対米一辺倒外交から抜け出そうとする動きがあったが、米国の圧力によってつぶされてしまった。その後、中国の改革開放政策の成功によって中国の国力が急成長し、日本は中国に脅威を抱くようになり、対中抑止力維持のために日米安保条約を強化する論調が強まった。安保条約60周年を迎えた今年、主要メディアの論調は殆ど一致して、中国けん制のために安保条約を維持、強化すべきとしている。トランプ政権の同盟軽視によって、米国への信頼感は低下しているにもかかわらず、日本の「対米従属」姿勢は基本的に変わっていない。コロナ後においても、米国の絶対的地位は変わらないと見て、日本は米国に働きかけて同盟重視に向かわすべきだと主張する。

2、中国、アジア重視の流れ。日本には一貫して中国やアジアを重視した外交を展開すべきという論調が存在する。しかし、冷戦構造と米国一極時代の中で、この流れはさまざまの制約を受け、十分な発展を見ることができなかった。現在でも、東南アジアや南アジアと中国を区別し、前者とは関係を深めるが、中国とは一線を画すというのが主流を占める。そのため、東アジア共同体や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)はなかなか実を結ぶことができないでいる。中国を含むアジア全体と団結して欧米主導の世界秩序を改革すべきという主張は少数派で、主流メディアからは殆どとりあげられない。しかし、中国の成長ぶりを目にして、「日中協力による日本再生」の潜在的世論は根深く存在する。それを顕在化させるには、日中双方の弛まぬ努力を必要とする。とりわけ国力で絶対的優位に立つ中国側の対日姿勢のバージョンアップが求められる。

3、相対的自主外交を求める流れ。日米安保条約の制約によって、日本の自主外交はずっと遮られてきた。が、米中対立が激化する中、米国は日本がアメリカに代わって、東南アジアや南アジアで影響力を強めるのを望むようになった。また、軍事面の協力では、今までの「米国は矛、日本は盾」の関係を、日本も一部の矛の役割を果たすことを許容する方向に変わりつつある。日本が一定の攻撃力を持つことは、日本の交渉力を強めることになり、日本の自立性強化にプラス要因とみる。安倍政権は対中対米バランス外交を展開するチャンスととらえ、ここ数年、対中外交姿勢を調整し、改善に向けて努力してきた。但し、日米安保条約を前提としており、いわゆる自主性も相対的なもので、アメリカの顔色を伺わないわけにはいかない。最近、経済安全保障問題を取り上げ、「先端技術の中国への流出を防げ」と声高に叫んでいるが、その現れであろう。最近、かつての親米的論者が、日本の生存こそ重要で、日米安保条約で自らを縛り、中国と敵対するのは国益に合わないとトーンを変えている。これこそが日本の真の底流であろう。

総じて言えば、当面、表層的には第一の流れが主流をなしているが、今後は第三の流れがウエイトを増していき、中長期的には第二の流れがますます勢いを得ていくであろう。

 

最後に中国の対日政策と日本の在り方を述べてみたい。中国の外交政策の基本は覇権なき世界、人類運命共同体の構築である。その最大障害はアメリカの覇権主義にある。日本は日米安保条約によって、アメリカの覇権体制維持に組みこまれている。ここに日中関係が根本的に改善を見ることができない原因がある。具体的には歴史的遺留問題と安全保障面での相互不信である。

歴史的遺留問題には戦争認識問題(靖国神社参拝など)、尖閣領土問題、対台湾問題などが存在する。最近では、香港問題や南沙諸島問題への干渉が新たに問題化している。が、安倍内閣のここ数年の努力によって、日中関係は改善を見せてきた。ここで強調しておきたいのは、最近日中関係が改善したのは、米中摩擦が激化する中、中国が日本にすり寄ったという間違った見方が主流となっていることだ。中国の日本に対する原則的立場は何ら変わっておらず、日本の対中姿勢が逆戻りすれば両国関係がすぐに悪化する。現に、習近平国家主席の日本公式訪問が延期されることになってから、日本の対中姿勢に若干変化が見られ、日中関係は後退する兆候を見せつつある。場合によっては、習主席の公式訪問は中止になることも十分にありうる。

それから、米国の対中姿勢の急変によって、日米安保条約による日本の対中「敵視」政策が中国の安全保障に対する一大脅威となりつつある。歴史的遺留問題も、元を正せば、アメリカの対中対日政策にある。こうした中、日本は引き続き米国側に立って対中けん制を強化するか、それとも自主性を強めて、米中和解の橋渡しをするかの選択を迫られている。コロナ後の世界の趨勢は目に見えており、日本の論壇で後者の意見が勢いを増しつつある。とは言え、自衛隊や政治家を中心として、伝統的立場から抜け出せない前者の意見が依然として主流を占める。マスメディアの世論もまた然りである。今まさに、日中間の戦略的意思疎通が求められる重要な節目に来ている。

また、中国は日本と未来志向の戦略的パートナー関係の樹立を目指しているが、中国側の領土保全行為が「覇権的」とみられているため、日中間には相互信頼の醸成が妨げられる状況が続いている。特に南シナ海での中国側の一連の建設工事は周辺諸国の疑念を招いた。が、それも一段落しつつあり、今後は公共財としての施設の活用が進められる。中国の真の意図、即ち外部勢力の干渉排除と安全な平和環境構築が、徐々に近隣諸国に理解されていこう。中国が客観的事実に基づいて平和発展を説く条件が整いつつある。日本の有識者が中国を前向きに評価し、日中間の安全保障面での相互信頼が醸成される時代が間もなくやってこよう。             (2020529日)


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